2025/05/23 22:51

紫蘇と日本人の暮らし 〜梅紫蘇から広がる七色唐辛子の世界〜
紫蘇(しそ)は、古くから日本人の暮らしに寄り添ってきた香味野菜です。その爽やかな香りと、ほんのりとした渋み、そして独特の清涼感は、和食の名脇役として長く愛されてきました。紫蘇には大葉と呼ばれる青じそと、梅干しや漬物に使われる赤じそがありますが、今回はとくに赤じそに焦点を当て、日本の食文化との深い関わり、そして私自身が出会った梅紫蘇の粉末を通して見えてきた新しい七色唐辛子の世界について綴ってみたいと思います。
紫蘇の歴史をたどると、その起源は中国にあり、古くは薬草として用いられていました。奈良時代にはすでに日本に伝わっており、薬用として、また防腐や解毒の目的で食事に取り入れられていた記録が残っています。赤じそには抗酸化作用のあるポリフェノールが含まれ、古来から人々の健康を支えてきた薬草でもあったのです。
そんな赤じそが最も身近に使われる例として、やはり「梅干し」が挙げられるでしょう。梅を塩漬けしたあと、赤じそを加えることであの鮮やかな紅色が生まれ、同時に風味も格段に豊かになります。赤じそには雑菌の繁殖を抑える防腐作用があるとされ、湿度の高い日本の気候のなかで長く保存するための知恵でもありました。また、紫蘇の香りが梅の酸味をまろやかに包み、味のバランスを整える役目も果たしています。こうして赤じそは、日本の梅文化に欠かせない存在となってきたのです。
幸運にも偶々、三重県の農家の方が手がける梅紫蘇の粉末に出会いました。梅を漬けた赤紫蘇を丁寧に乾燥させ、粉末に加工されています。袋を開けた瞬間、鼻先に立ちのぼるその香りは梅の酸味をほんのり残しながらも、紫蘇本来の爽快さが際立ち口に含むと清々しい後味が広がります。
早速、試作調合を重ねて梅紫蘇風味の七色唐辛子「特撰・伊勢」が誕生致しました。従来の七味にはなかった梅紫蘇の香りを前面に出した試みは、その香りが唐辛子の辛味に爽やかな奥行きを加え、仄かな酸味を残す従来の七味にはない爽やかな後味の余韻が生まれました。
この梅紫蘇入り七色唐辛子は、冷奴にひとふりするだけで、豆腐の淡泊さに華やかさが加わります。素麺や冷やしうどんの薬味としてもよく合い、暑い夏にぴったりの一品となります。また、きゅうりの浅漬けや白菜漬けに振りかけても、全体の味を引き締めてくれますし、なにより白米に直接かけていただくのも絶品です。紫蘇の清涼感が口の中をさっぱりとさせ、食欲の落ちがちな夏にもぴったりの薬味になりました。
このような新しい調合を試みているうち、さらに発想を広げていくと西洋のハーブとの共演にも可能性が見えてきました。たとえば、バジル。イタリア料理には欠かせない香草ですが、これを日本の七味に取り入れてみるとどうなるか。甘くスパイシーなバジルの香りと、唐辛子や山椒の辛味が融合することで、全く新しい風味が生まれるのではないかと想像しています。
七色唐辛子という伝統の中に、紫蘇やバジルなど、時代やニーズに合わせた新しい香りを取り入れていく——それは決して伝統の破壊ではなく、むしろ伝統を進化させる試みだと私は信じています。
紫蘇の香りに導かれながら、これからも日本の香辛料文化を、少しずつでも次の世代へと繋いでいきたい。そんな想いを込めて、今日も私は七色唐辛子を調合しています。